貴美代さん、こんにちは!「まよい焼き」が引き継がれたとお聞きして、やってきました!!
坂本町 | |
tanabata bakery cafe(まよい焼き でんちゃん) |
2022年6月30日、惜しまれながら閉店を迎えた柳川市辻町の「まよい焼き でんちゃん」。(https://www.yanagawa-net.com/zetsumeshi/list09/ )
ぱっと見は回転焼きなのだけれど、その中身とお味はまったくの“別モノ”の柳川ソウルフードです。チャキチャキ元気で笑顔がキュートな看板女将・高﨑貴美代さんの人柄もあいまって、子どもからお年寄りにまで愛される存在でした。
そんな「まよい焼き」の閉店後、継承者として現れたのが、柳川の総鎮守・日吉神社近くにあるカフェ「tanabata bakery cafe」を営む石橋隆也さん。貴美代さんと石橋さんのおふたりによる、迷いなき「まよい焼き」のバトンタッチ!その向こう側にどんなストーリーがあるのか聞いてきました。
取材/絶メシ調査隊 ライター/西村里美
初代店主と現店主のお二人に話を聞こうと、石橋さんが営むカフェ「tanabata bakery cafe」へやって来た絶メシ調査隊。その店先には、調査隊も見覚えのある「まよい焼き」ののれんを掲げたキッチンカーがありました。お出かけ中の石橋さんを待ちながら、まずはまよい焼きの生みの親・高﨑貴美代さんとおしゃべりをスタートしました。
柳川市辻町・旧「まよい焼き でんちゃん」で店頭に立っていた当時の貴美代さん。この笑顔に癒やされる常連さんも多かった。
貴美代さん、こんにちは!「まよい焼き」が引き継がれたとお聞きして、やってきました!!
私も今年で80歳やけん、新しい人が継いでくれて、ゆっくりできてうれしいんよ。お店を営業しよった時はお父さん(ご主人)も体調が悪かったけれど、引退して手術もして、前より元気になったとよ! 今は息子と同じ家に住んでるし、散歩も庭いじりもできるようになって“るんるん”なんよ。
それは良かったです! でも、お店が閉店した時は、ちょっと寂しかったんじゃないですか?
そりゃそうよお。足かけ36年も営業しとったけんね。
お客さんからも惜しまれたでしょうねえ。学生の頃からまよい焼きを食べている人なら、お店にもその味にも、色々な思い出が詰まっていることでしょう。
閉店前には毎日行列ができてね。ただ、まよい焼きを焼くのに1回30分近くかかるけん、なかなか買えん人も出てきて。「最後、食べられんやったやん〜!」と泣き出しそうな人もおったと。
まよい焼きが継承されて、ファンの人は嬉し泣きしているでしょうね!
まよい焼きはおかず系の具のバラエティが豊富。皮はサクッと軽めの食感で、2〜3個ぺろりといけます
たまごの黄身で具の種類を書いているのも「まよい焼き」らしさ。このひと手間ももちろん継承されています
今回の継承は、貴美代さんがおつき合いのあった会計士さんに閉店について話したのがきっかけ。まよい焼きを絶やすのはもったいないと、「福岡の『事業継承・引き継ぎセンター』に相談してみては?」と勧められ、次なる店主探しがスタートしたといいます。
まよい焼きは、自分の代でぽっと終わらせようかと思ったけどね。「やめちゃいかんよ!」「食べられんごとなったら困るばい」って、止めてくれる人もいっぱいおってね。
なるほど。それで「事業継承・引き継ぎセンター」に相談したんですね。すごい行動力だなあ。
私も「どうなるとかいな〜?」と思ってたんやけど、何人か手をあげてくれて。いろいろハプニングもありながら、最終的に石橋さんに引き継いでもらうことが決まったんよ。
まよい焼きファンのみなさんもひと安心! ところでカフェ前のキッチンカーにかけられたのれんが、けっこう色褪せているんですが…。
ああ、あののれんは、辻町のお店にかけとったのを、ゆずったとよ!
のれんも継承かあ。ほっとするというか、「これ懐かしかね!」と言ってくれる人もたくさんいそうですね。
かわいいグリーンのキッチンカー。味わい深く、少し色褪せたのれんもそのまま引き継いでいる
ほかにも鉄板やら、調理器具やら、全部引き継いでもらいました。まよい焼きをつくる材料も、腐らんやつは石橋さんに持っていってもらったと。
鉄板が同じだと、貴美代さんの味を再現しやすそうですね!
「まよい焼き でんちゃん」の「でんちゃん」って、私の娘が小さい頃のあだ名なんやけど(笑)、それごと引き継いでもらったと。石橋さんも「貴美代さんが焼いていた まよい焼きの味をそのまま変えないように頑張ります!」って約束してくれたんよ。いい人やろ。
石橋さんとは、師匠と弟子の関係ですか?
いやいやそんなんじゃないけど、昔の常連さんが まよい焼きを買いにきた時、「あれ、なんか味が変わった?」ってなったら、お客さんも石橋さんも可哀想かでしょ。だからね、石橋さんには自信を持って焼いてほしい。まだ始まったばかりだから、時々はここに寄らせてもらって、まよい焼きを食べさせてもらいよるんよ。
「まよい焼き」の名前の由来は「どの味を食べようか迷ってしまう」こと。旧店と同じく、味展開は14種類です! 全種類が目の前に並ぶとなるとはしゃぐしかない
そうこう話しているところに、石橋さんが戻ってこられました。石橋さんは小学生の頃から、まよい焼きをちょくちょく食べていた地元っ子。ニュースで閉店を知り、もしかして自分が引き継ぐことができるかもしれないと、商工会議所に相談したのが現在にいたるきっかけだったそうです。
まよい焼きって、けっこう焼くのが難しいんですよ。最初は、「1〜2週間練習したら焼けるようになるのかな?」と思っていたら、考えが甘かった〜!
あはは。火加減が絶妙やけんね〜。結局2カ月近く教えたかねえ。
え!? そんなにですか!! お店をやっている時と変わらない生活だったのでは?
週4〜5回は教えに来てくれたんじゃないですか? 貴美代さん、その節は大変お世話になりました。今でもたまに焦がしてしまうことがあるので、今後もちょくちょくチェックしに来てくださいね。
最初の頃は「これじゃ、うちのまんじゅうじゃないよ」な〜んて言ったこともあったけどね(笑)。もう安心しとるけれど、たまには味見しに行くね。
はい! 貴美代さんとの練習の締めくくりとして、ふたりで柳川市内のイベントに出店したこともあるんですよ。焼き台を2台用意したけど、行列ができるほどお客さんが来てくれて。
あの日は忙しかったねえ〜!! 朝、焼き始めて売り切れるまで、トイレに行くヒマもなかったくらい(笑)
まよい焼きはすべて手作り。ピザ味のアクセントとなるピーマンは細かく手切りされているなど、細かな手間ひまがかけられている
大忙しだったというイベントですが、ファンにとってはそれもそのはず。一時はもう食べられなくなると思ったまよい焼きと、高崎さん、そして新しい店主の石橋さんにも会えるとなると、足を運ばずにはいられなかったことでしょう。
石橋さんが営む「tanabata bakery cafe」は、柳川で最も古い神社とされ、柳川の総鎮守として信仰を集めている日吉神社のすぐ近く。川下りの舟が行き交う掘割(ほりわり)沿いに整備され、「日本の道百選」にも選ばれた「水辺の散歩道」に面しているので、地元の人はもちろん、観光客にも目にとまる場所にある。
3月の取材時、庭の桜は満開。店内はもちろん、庭の心地よいテラスで「まよい焼き」を食べてもOK。いずれは川下りを楽しんでいる方が乗船しながら食べられるようにしたいとのことで、楽しみが膨らむ
ところで石橋さん、この場所ってすっごく雰囲気があるし、ロケーションも最高ですね。
そうでしょう。この建物は、「空き家バンク」のような機能を使って紹介してもらいました。この場所を活かして、もっとたくさんの人に まよい焼きを知ってもらえるようになりたい。川下りのお客さんにも食べていただきたいです。あとは僕が頑張るだけですね!
古民家を素敵にリノベーションした店内。お店のすぐ目の前には緑豊かな日吉神社があるので、まよい焼きをテイクアウトして散策を楽しむのもまた良い
お店の前に停まっているキッチンカーでも、あちこち出かけているんですか?
そうですね。先日はお隣の大川市で開催された木工まつりにお邪魔しました。今は貴美代さんの味を継承するのに精一杯ですが、もっと味に自信が持てるようになったら、まよい焼きの2軒目、3軒目も考えたいですね。
あらーっ、どこに出店する気でおると?
まずは筑後エリアからせめて、久留米あたりですかね?それから福岡へ北上して行きましょうか!?
石橋さんは30代やろ? 私が「まよい焼き」を始めたのが42,3歳だったから…、あと35年か40年は頑張れるやない!
目指すは創業70年の老舗ですね。ちなみにたくさん種類がある「まよい焼き」ですが、おふたりの一番好きな具はなんですか?
あたしは辛いのが好きやけん、チリポテトかキムチ。
僕はチリポテトがナンバーワンです。
好みの味まで、息ぴったり!!
おふたりの推し「まよい焼き」の「チリポテト」。ホクホクのじゃがいもにほどよい辛さのチリペッパーがたっぷりかかり、リピートしたくなるおいしさでした。
今日はたくさんお話を聞かせていただいて、ありがとうございます。この継承のストーリーが、まよい焼きファンのみなさんに少しでも伝わるとうれしいです。では最後におふたりで記念撮影を。ちょっと肩でも、組んでみますか?!!
こ、こうですか?
ちょっとーっ! お父さんにヤキモチ焼かれるわーっ!
仲良しのおふたり。貴美代さんの笑顔もはじけました!
今は柳川を離れ、ご主人の二三さんと息子さんの3人で暮らしている貴美代さん。時には「tanabata bakery cafe」を訪れて、元気いっぱい、おしゃべりに花を咲かせながら、石橋さんが育てていく「まよい焼き」をずっとずっと笑顔で見守ってほしいと心から思いました。おいしさは変わらないまま新天地でのスタートを切ったまよい焼き。貴美代さんが切り盛りしていた頃と同じように、これからもファンを増やしながら末永く続いていくことでしょう。変わらないまよい焼きを味わいに、みなさんもぜひ訪れてみてください。
絶メシ店によっては、日によって営業時間が前後したり、定休日以外もお休みしたりすることもございます。
そんな時でも温かく見守っていただき、また別の機会に足をお運びいただけますと幸いです。