こんにちは!焼きたてのいい香りですね。さっそくですが、この「まよい焼き」って、メニューが多いから迷うって意味なんですか?
辻町 | |
まよい焼き でんちゃん |
※「まよい焼き でんちゃん」は惜しまれながら閉店することになりました。詳細は追ってお知らせ致します。
柳川市の3大発明品と言えば、何が思い浮かびますか?
他の二つは知りませんが、これだけは言えます。「まよい焼き」です。
一見して回転焼き、大判焼きとも呼ばれるフォルムですが、その中身は目玉焼き、ハンバーグ、キムチにチリポテトなど、まさかのおかず系!食べ盛りの子どもたちを中心に絶大な支持を得て、佐賀市と柳川市が取り合いになったと言う逸話も。
焼きたてを渡されたら、その場でかぶりつかずにはいられない、それがこの「まよい焼き」です。覚悟はいいですか、お腹をすかせて来ましたね!
それでは、いざ入店!あらあら、ものすごく明るい女将さんの笑い声が聞こえてきましたよ。
取材/絶メシ調査隊 ライター/大内理加
店頭にはアツアツの鉄板、その前に立つのが「まよい焼き でんちゃん」の女将、髙﨑貴美代さんです。次々に訪れるお客さんとおしゃべりをしながら、40個の金型に次々と生地を充填し、焼き加減を確認しています。メニューを見ると、定番の黒あん・白あんに加えて、約15種類もの具材が掲載されています。
こんにちは!焼きたてのいい香りですね。さっそくですが、この「まよい焼き」って、メニューが多いから迷うって意味なんですか?
そうよ。名前は家族会議で決めたと。お客さんが迷うけん「まよい焼き」にしたらって、子どもが付けてくれてね。
一度聞いたら忘れないですよね。まよい焼きはいつから開店されてるんですか?
始めたのが1988年やね。その時は、細工町におって、この先のコンビニの所に引っ越して、そこからこの場所に移転したとよ。よ〜転々としとるね。アッハッハ。
まよい焼きの前は、電器屋さんしよったとよ。
え〜!全然違う業態からの転身ですね!
もともと主人が脱サラして電器店始めたっちゃけど、以前ほど売り上げが伸びなくなってきてね。何かできることはないやろかって考えて。
なるほど。思い切ったアイデアですね。
回転焼きなんて、それまでは全然作ったこともなかったけんね。知り合いに少し教えてもらって、あとは仕事と家事を終わらせて夜中に練習しよったとよ。それで電器店の片隅を借りて始めてね。その後は電器店を辞めて「まよい焼き」のお店にしたとよ。
お店を乗っ取っちゃったんですね!
アハハハ、そうそう。
明るいな〜。
前はね、佐賀にもあったとよ。
え! まよい焼き2店舗もあったんですか!
佐賀市の女子校の前に二号店を出したら超ブレイクしてね。
行列ができよったとよ。そっちはお父さんにまかせてね。お父さんは女生徒に懐かれよったけん、「おっちゃん、おっちゃん」ってね。今でも、こっちのお店に卒業生が来てくれるよ。
お店の壁にかかっている大きな絵は、佐賀北高の芸術コースの生徒さんが描いたファンアート。どれだけ慕われているかがわかります
お母さんにお話を伺っていると、奥からご主人の二三(ふたみ)さんが登場。お話をお聞きしました。
お母さんから聞きましたけど、佐賀でお店をされていた頃は、学生さんにモテモテだったとか?
恋バナを聞いてやりよったったい。女子校やけんね、周りに男はおらんかったけん。
女将さんはヤキモチ妬かれなかったんですか?
アハハ!ぜ〜んぜん。そういう人間じゃないもん。
お父さん、信頼されてますね〜。ちなみにお二人の馴れ初めは?
彼女がね、「結婚してくれんと死ぬ」ち言うたけんね。
出た出た(笑)
先に言うた方が勝ちやんね。
仲良いですね。お休みの日もお二人ご一緒なんですか?
休みの日はどっか行ってさ、帰りに温泉に入れてやらんと。足が痛くて仕事ばせんち言われたらいかんけん。
素直じゃないんだから。「まよい焼き」よりアツアツじゃないですか(笑)
妖精のように奥から現れ、いつの間にか奥に戻って行かれたお父さん。お母さんの話を聞きながら、終始嬉しそうに昔のことを教えてくれました。
まよい焼きは1個を2回に分けて焼くのですが、おしゃべりをしながらも貴美代さんの手はリズミカルに動きます。こんな風に焼き上がりを待つ時間もお客さんにとっては楽しみの一つ。それにしても、これだけのメニューを作るなんて、どこからアイデアが湧いてくるのでしょうか。
開店焼きならあんことかクリームとか、甘いものが多いイメージなのですが、まよい焼きはおかず系がほとんどですね。小腹にちょうどいい感じ。この具の多さも人気の秘密なんでしょうね。
人がせんことをせないかんけんね。うふふ。
メニューはどうやって決めているんですか?
お店を出した当時、柳川高校の生徒さんがほとんど毎日来てくれよったとよ。それで思いついた具材を試食してもらって、パスしたメニューが採用されると。
なるほど。学生さんの舌にかなったものだけがメニュー化されるシステム!
でも、味がこれだけあるとどれを食べるか迷いますね。あ、食べる時も間違えないように、具材の名前が皮にが焼き付けてあるんですね。
そうそう。発明やろ。
ほい、焼けたよ。どれを食べたい?
わ〜!じゃあ、「たまご」で!ベーコンエッグが入ってる。これは食べごたえある〜。マヨネーズが入っているのも嬉しい。
「たまご」焼きたては表面がカリカリ、中はふっくら!生地はかなり甘さ控えめなので、どんな具材にもマッチしています
ハイ!もう一つ!
トマトとチーズの「トマチ」と、チリパウダーを振りかけたポテトフライにベーコンを合わせた「チリポテト」。
※「トマチ」は材料がなくなり次第販売終了だそうです
チリポテトは後からチリペッパーの辛味が追いかけてきます。これはビールにも合いそう!
そうやろ。お客さんの中にはおつまみにするていう人もおるよ。
ハンバーグやウインナーなど、ガッツリ系の具材が多いのも学生さん御用達ならでは。もちろん、黒あんやカスタード、チョコなどスイーツ系もあり、別バラもしっかり対応してくれるのもニクいですね。
焼きたての食感もあいまって、結構ペロリといけちゃいます。最高記録は、女子中学生の16個ですって!若いってすごい!
焼き立ては本当に香ばしいですね。何かコツがあるんですか?
日によって、微妙に粉の量を変えてるんよ。毎回しっかり測って作るわけじゃなくて、天気や気温に合わせて調整してる。
あとはね、内緒。アハハハ
それにしてもお母さん、すごく楽しそうですね。お仕事してて嬉しい瞬間ってどんな時ですか?
もうね、30年もやってるから、学生さんが大きくなって子どもを連れてきてくれるとよ。それが一番嬉しいね。
親子2代で通ってくれる。嬉しいですね。
お値段も1個150円って、お手頃ですよね。
子どものお小遣いで買えるようにと思ったけんね。最初はこの半額くらいやったとよ。その頃はとにかく利益を考えてなくてね。
お店を出す前から夜中に練習されて、オープンした後もずっと立ちっぱなしで働いていらっしゃいますよね。しんどいな〜とか、辞めたいと思ったことはなかったんですか?
辞めたいとは思わんかったよ。もともと電器屋さんて、その時代の最先端の機器を売りよるわけやん。それを辞めたってことで多少肩身が狭い思いをしたこともある。
だからこそ、この場所で立ち直らないかんとよ。それに周りの皆さんにお世話になったけん、地元に貢献できるお店になろうと。
本当は、佐賀の方が売れよったけどね、
感謝の気持ちと、お母さんの意地もあるんですね。
そう。やけん、今まで頑張ってこれたと。
お客さんにしても、ずっと続けて欲しいと思っているのではないでしょうか?
そうやねー。最近よく言われるとはね、「おばちゃん辞めんでね。あと50年は続けて〜」って。そしたら私、何歳になるよって。アハハ
みんなの思い出の味ですもんね。ご家族はどう思っていらっしゃるんですか?
子どもは継ごうか?って言ってくれるけど、専業やったら食べていけるかわからんけん、跡を継いでとは言いきらんとよ。それでも、いろいろと協力してくれるけんね。それで今があるけん。
まよい焼きの名前の由来もですけど、ご家族と支え合っていらっしゃるのも素晴らしいなと思います。
最初はこんな風に商売するなんて、思ってもみなかった。もともとは、お隣さんに挨拶するのもやっとできるかどうか。そのくらい人見知りやったとよ。
え!想像できない!
お店に来てくれる子どもさんやお客さんとのおしゃべりは本当に楽しいっちゃんね。それもこの商売を始めたけん分かったこと。あのままサラリーマンの嫁しよったら、閉じこもっとったかもしれん。主人にも本当に感謝してる。
素敵なお話ですね。
今はね、休日の方がかえって疲れるとよ。お客さんから元気を貰っとるんやね。
それじゃ、まだまだ辞められないですね!なんだか安心しました。
まよい焼きの皮には、具材の名前が焼き付けられている。お客さんが間違わないように、ちょっとした優しさが嬉しい。ちなみにこの焼き付けの方法は、「秘密」だそうです。
お店では、いつもチャキチャキな女将さん。家族と共に作り続けてきた「まよい焼き」は、お客さんとの思い出をつないでくれる大事な存在でもあるんですね。
15種のメニューで迷ってしまった時は、
「迷うなら 全部食べよう まよい焼き」
とばかりに、気の合う仲間や家族と全部制覇してみては?
絶メシ店によっては、日によって営業時間が前後したり、定休日以外もお休みしたりすることもございます。
そんな時でも温かく見守っていただき、また別の機会に足をお運びいただけますと幸いです。