No.04 地域 三橋町
店名 喰い切り料理 きよもと

骨董を愛し、和食に愛された男
多才なる “柳川の魯山人”の野望とは!?

※「喰い切り料理 きよもと」は惜しまれながら閉店することになりました。詳細は追ってお知らせ致します。

今古賀の交差点から斜め左に入って見えてきたのは、ツタがびっしりと絡まる古民家。もうこの佇まいから尋常じゃありません。そして看板には謎の「喰い切り料理」の文字が…。でも、外からチラッと見える庭のしつらえや入口の水鉢がさりげなく粋なんですよね。タダモノじゃない感満載の「きよもと」に入ると、そこに待っていたのはやはりタダモノじゃない“柳川の魯山人”でした。和食の腕前はピカイチなのに、話し出すと骨董や書画、木についての話題ばかり。大将!あんまりソワソワしないで!

取材/絶メシ調査隊 ライター/大内理加

和食の腕とともに美意識も磨いた
店主の世界観に目が離せない!

年季の入った古民家の中には一枚板の迫力あるカウンター、壁に貼られた水墨画、いけすかと思いきや金魚と古木があしらわれた水槽。そして奥には大きな布袋様の木像…。最初こそ見所が多すぎて視線が渋滞を起こしましたが、一歩引いて見ると不思議と調和した味わいのある内観になっているんですよね。個室のテーブル席から見える庭も四季折々の風景を映し出しています。そして、カウンターの向こうには、上品なホワイトヘアでインテリ感漂う店主・下川清義さんが。いろいろとツッコミ…いえ、お聞きしたいことがあるのですが、まずはここから。

ライター大内

「こんにちは。今日はよろしくお願いします。あの、さっそくなんですけど『きよもと』の前についている“喰い切り料理”ってなんですか?」

下川さん

「あれは調理用語で“一品一品食べきってしまう料理”と“会席料理“という二つの意味があります。今はあんまり使われとらんけど、私が修行しよった頃は使ってました」

ライター大内

「なるほど。下川さんはずっと和食の修行をされていたんですね。なぜこの道を選ばれたんですか?」

下川さん

「私は脱サラではじめたんですよ。オイルショックの時に会社を辞めて、軽い気持ちで喫茶店でもやろうかと思っていたんです。そしたら、ある日バイト先の焼き鳥屋で友達に『男子一生の仕事なら、大阪の辻(辻調理師専門学校)に行かなダメよ』と言われまして。料理学校の東大みたいなところですね。それで、辻に入学しました

ライター大内

「じゃあ、その子の一言がなければ、今頃はカフェのオーナーだったかも」

下川さん

「そうですね。どんな形でもいいけん生活できればと思っていましたから、こだわりはなかったですね。でも、早い段階から技術を身につけることができたけん、今は本当に感謝しています」

ライター大内

「卒業後、そのまま大阪でお店を開く予定はなかったのですか?」

下川さん

「私は店を開くなら地元でと決めていましたから戻ってきました。地域で味は変わりますから、早く九州の味に馴染んだほうがいいと思って。福岡で7年ほど修行して、その後店を構えたんですね」

ライター大内

「なるほど。こちらの店舗はもともとご実家だったんですよね。ツタがびっしり生えていて、遠目に見てもすぐわかりました」

下川さん

いつの間にか生えとったっちゃんね。ちょっと待って」

いつの間にか生えてたというにはずいぶんと存在感を放っていますが。。。
店の外に出てツタの間に手を突っむ下川さん。
なんと、ツタからはイチジクのような果実が実っておりました。

下川さん

「ホラ!」

ライター大内

「わ! すごい! イチジクみたいですね。わー! 店の外には立派なお庭もあるんですね! 灯篭にもツタが絡まって絵になりますねえ

下川さん

「うちのじいさんが庭師やったとよ。この庭は骨董品の灯篭を入れて、私が作ったっちゃん

ライター大内

「庭まで作られたんですか? 本当に多才ですね! ちなみに、建物はいつぐらいに建てられたんですか?」

下川さん

「70年前くらいですね。住まいというよりも農作業をする小屋だったんです。土間やらかまどやらがあって。長年煙でいぶされているので、天井の梁や柱もこんな色になったとですよ」

ライター大内

「そうなんですか! 天井は深い茶色で趣がありますよね。柱も骨太でかっこいい。カウンターの一枚板も素敵です」

下川さん

「私はもともと木が好きで、このカウンターは店ができる前から買っていました。ミズメザクラの木なんですけど芯に赤みが残っているでしょう?今ではあんまり無いとですよ。裏にはイチョウのカウンターや屋久杉の灯篭などもありますよ。あと、この欄間はね…」

あらら、下川さんの趣味の話にエンジンがかかってきました。私もテレビの「なんでも鑑◯団」を毎週楽しみに見ているだけあって、ものすごく興味があるのですが…。カメラマンとディレクターの視線が痛いし、料理も冷めてしまうので実食に移りましょう。

「喰い切り料理」を詰め込んだ
多彩な味わいの松花堂弁当

ライター大内

「うわ〜!おいしそう!メインはこの右上のお魚ですね。味噌で味付けされた白身魚の上に野菜がたっぷりのあんがかかっています」

下川さん

「このあんは卵の黄身に油を加えています。和食のグラタンをイメージした看板料理です。創業当時から出しているから、もう33年ですね」

ライター大内

「野菜の食感と優しい卵の味わいに魚の塩気が加わって、ご飯が進みます!これ、なんて名前なんですか?」

下川さん

それがね、なんて名前付けていいか分からんとよ。お客さんからは『もと焼き』と呼ばれているけど。きよもとの『もと』かな

名前の由来はユルいですが、組み合わせの妙とバランス感覚はさすが和食のプロ。揚げ出し豆腐という定番の居酒屋メニューも下川さんにかかれば、ふわふわ豆腐におダシが上品に染み込む和の逸品に変身。もみじおろしの辛味がアクセントです。
ほかにも卵の黄身とササミの和え物、甘辛く味付けた貝や南蛮漬け、ナスのしぎ焼きなど、見映えもよく量もしっかりあるおかずが詰まっています。全体的に塩気や甘み、酸味がバランス良く散りばめられているので、次にどれを食べようかと迷うのも楽しい!

ライター大内

「ああ、美味しかった。あれ? この実はなんですか?」

下川さん

「ああ、それはヒシの実です。柳川のお堀で採れるとですよ」

ライター大内

「クリよりちょっと固い食感ですね。噛むたびに素朴な甘さが出てきます。初めて食べましたがクセになる味わい。夜も柳川料理も味わえるんですか?」

下川さん

夜は柳川で仕入れるスッポンやワケというイソギンチャクの味噌煮といった郷土料理も出してます。地元の人に親しまれるメニューを心がけているんです」

ライター大内

「なるほど!会席料理というとちょっと気構えしてしまいますが、こちらは肩肘張らずに楽しめそう。そうそう、お昼に予約制で出されている松花堂弁当っていつから始められたんですか?」

下川さん

「2年前くらいかな。一度店を閉じて、もう一回オープンした時ですね」

ライター大内

え!きよもとさん一回閉まっちゃったんですか?

和食と骨董、どっちも本気!
柳川の魯山人が夢を語る

下川さんがさらりと放った一言はまさに衝撃! きよもとさん! どういうことですか!!

下川さん

「もともと、この店は遠方からでも飲み会やら接待やらでよく使ってくれよらしたんですよ。でも、景気が悪くなったともあるし、皆さん夜に飲みに行くのを控えだして。駅からもちょっと歩くしね。それで店を一旦閉めたんです。その後、半年くらい他の店に手伝いに行ってたんだけれど、私も店のことはわかっとるから、いろいろ気を遣いすぎたとでしょうね。体調を崩してしまって、それでその店を辞めたとよ。でもそのまま宙に浮いて遊ぶわけにもいかんやん。この店舗も貸し出しを募集しとって、借りたいって人もおったとですけど、手続きの問題で実現せんやった。それならもう一回お店をやろうかなって」

ライター大内

「そんな歴史があったんですね。でもその時にお店を借りられていたら、きよもとの味は無くなっていたんだと思うと、よかったような。てっきり骨董に商売替えされたのかと…」

下川さん

私自身は本当言うと古美術の仕事がしたいよね。正直、和食よりも古美術の方が好きやもんね

ライター大内

「なるほど(笑)。ちなみに、気になっていたのですが、アルバイト募集の張り紙に独立したい方歓迎と書かれていますよね」

下川さん

そうそう。働いてみて、よかったらこの店で独立してもらえればと

ライター大内

「やっぱり(笑)。いつから古美術はお好きなんですか?」

下川さん

「もともと和食に使う器には興味があったとですよ。店を始めて5年後くらいで父が亡くなった時にたまたま日本刀を譲り受けたんです。でも手続きが分からんけん古美術店に聞きに行って。それからですかね。ハマってからは陶芸や水墨画も習いました。水墨画は2人の先生に教えてもらいました。今は時間がなくてなかなか書けないけど」

ライター大内

「ご自身でもやっていらっしゃったんですね!その美的感覚ってお店のあしらいや料理の盛り付けにも表れている気がするのですが」

下川さん

「そうやね。いつか自分が選んだ古美術の器に料理を盛って、骨董談義なんかしながらゆっくり過ごせる店を作りたいね

和食に水墨画に古美術に。バイタリティあふれる柳川の魯山人(と呼びたい)下川さんが築いた趣がありすぎるお店。ツタに覆われた趣ある建物に少しでも目を奪われたら、まずはお電話で松花堂弁当のご予約を。彩り豊かな四季の味をいただきながら、外観から店内、様々なオブジェまで間近でじっくり眺めてみましょう。この世界観、ハマったらお店を継ぎたくなるかもしれません。

2022年更新情報:現在下川さんは「喰い切り料理 きよもと」としての暖簾を下ろし、本当に古美術のお仕事に専念されることに。きよもとがあった場所では「喫茶アカシア」さんが新たに営業をされていますので、こちらにも是非ご来店を!

No.04 No.04
地域: 三橋町
店名: 喰い切り料理 きよもと
ジャンル: 和食
お問合わせ:
0944-73-1351
営業時間:
定休日:
住所: 福岡県柳川市三橋町今古賀161-1
アクセス方法: 西鉄柳川駅から650m

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