「柳川を歩いていて、たまたま見つけたお好み焼き屋なんですけど。メニューがすごいんですよ!ちょっとこれ見てください。これぞ絶メシではないですか!?(iPhoneで写真を見せながら)メニューに肉肉肉大大大とか肉肉大とか書いてて、お好み焼きもマヨネーズがぐるんぐるんかけられてて、ほら見て!?めちゃめちゃ美味しそう」
三橋町 | |
仔馬 |
※「仔馬」は惜しまれながら閉店することになりました。詳細は追ってお知らせ致します。
「本当に店があるのか?」と、少し不安になるような細い裏路地。幹線道路を一本奥に入ったその道を進むと、やや色あせたオレンジ色の看板が、ひときわ目を引くお好み焼き屋『仔馬』がある。「お好み焼き」「唐揚げ」と書かれた店内丸見えのガラス戸からは、厨房でじゅうじゅうと音を立てながらお好み焼きを焼く店主の姿。
気になって店内をのぞいてみると、なんと壁一面に「肉肉」「肉大」「肉肉肉大大大」など謎のメニューが並んでいた!これは絶メシ調査隊に対する誘惑としか思えない。早速調査である!
取材/絶メシ調査隊 ライター/天野加奈
絶メシ調査隊(※)と『仔馬』との出会いは、ライター天野が怒涛の柳川あるきの末に偶然見つけて衝撃を受け、調査隊メンバーを口説くところから始まった。
※絶メシでご紹介する店舗は、調査隊の足と舌と愛着によって構成されています。
「柳川を歩いていて、たまたま見つけたお好み焼き屋なんですけど。メニューがすごいんですよ!ちょっとこれ見てください。これぞ絶メシではないですか!?(iPhoneで写真を見せながら)メニューに肉肉肉大大大とか肉肉大とか書いてて、お好み焼きもマヨネーズがぐるんぐるんかけられてて、ほら見て!?めちゃめちゃ美味しそう」
鼻息荒く『仔馬』を激押しする天野に説得された、どれどれとやってきた調査隊から、店を出ることには無言の納得を得たのであった。
色あせた文字の看板とガラス戸、はためく「氷」と「お好み焼き」ののぼり、どれをとってもたまらない
お店を切り盛りするのは、柳川出身柳川育ち、現在70歳の田中いつ子さん。この店で地元中高生の胃袋をわしづかみにして35年になるらしく、中学生のときから大人になっても通い続ける人が後を絶たないらしい。
それでは早速、噂のメニューから紹介していきたい!
\ドンッ/
「肉肉肉大大大」「肉肉肉玉大」「肉肉肉玉玉」「肉大大大」
\ドドンッ/
「イカエビコーン大」「肉イカエビ大」「肉エビコーン大」「肉イカコーン大」・・・
度肝を抜かれてメニューの前に立ち尽くしていると、いつ子さんが「意味わからんやろー!」と話しかけてくる。
ああ〜このあったかい感じ。悩み多き中高生が通いたくなるのもわかるぞ!
「お母さん!ずっと気になってたこの店にようやく来れました!意味はなんとなく想像できるんやけど、なんでこんな書き方なのかが気になりすぎます!どういう流れでこうなったんですか?」
「最初は肉と肉玉、コーン玉、イカ玉くらいしかなかったとよ。でもちょっと大きめに作ってっていう人とか、肉を多めに入れてって言うてくる人がたくさんおってね。肉大とか肉肉大とかをメニューに増やしよったら、だんだんこげんなったと」
「へえ〜。それにしてもすごい並び。お母さんこれ絶対おんなじのありますよね?ない?あっ、『肉大大』はあるのに、『肉大』はなくないですか!?!?」
「そこにあるやん(ニヤリ)」
あら探しをするライター天野に余裕の表情で「肉大」の場所を教えてくれるいつ子さん
仔馬のメニューに同じものは一つとない。そして、足りないものも一つとしてないのだ!
「おお、ありました、ありました(汗)ところで、お母さんはどうしてお好み焼き屋をやろうと思ったんですか?」
「最初はね、旦那がやろうって言い出したと。しかもお好み焼きやなくて、たこ焼きのほうがメインやったんよ。近くに三橋中学校と山門高校があるけん、店を始めた当初からその生徒たちが食べにきよったね」
「へえ〜!でも、どうしてそこからお好み焼きが看板メニューに?」
「お店を始めた頃の時代は、この辺じゃお好み焼きなんかなかったとよ。珍しかったっちゃないかな。最初の1〜2年は、外にずらーっと中高生が並んで、2時間くらい待っとったね」
「中高生が2時間待ち!!作り方はどなたかに習ったんですか?」
「いや〜あ、自分で練習したとよ。料理は素人やったけんね。お店をはじめてから、何回も作っちゃあこれじゃいかんなってまた作り直して、今の形になったと。私も最初は”こげん美味しなかの誰が食べると?”と思いよった」
お店は2つの建物をくっつけたような造り。こちら側はあまりにもお客さんが多かったため、あわてて増設したそう
可愛い姉ちゃんの切り取り写真は、中高生に向けたサービス心だろうか
もともとは建設会社の事務をしていたといういつ子さん。突然のお好み焼き屋への転身には、さぞ苦労されたに違いない。ちなみに開店当初はご家族でお店を切り盛りされていたそうだが、今では旦那さんも厨房からはなれ、いつ子さんがひとりでお店をまわしている。一人でやっている理由は「一人が楽やん」とのことらしい。
それでは早速、いつ子さんが幾多の中高生を虜にしてきた味を、いただこうじゃありませんか!
鉄板に並ぶのは、電話注文分の「肉玉」4つ。さて、今回天野がいただくのは・・・
「お母さん、せっかくやけん一番でっかいやつをください!」
「そしたら『デラックス玉大』を焼こうかね。あと、カメラマンさんたちもおるけん、『肉肉肉大大大』も焼こうか」
「はい、お願いします!」
※ちなみに「デラックス玉大」とは、肉大の最上級「肉肉肉大大大」にイカ・エビ・コーン・卵が加えられたものである
「この皿に入れるけんね」
チラッ
「えっ?」
優に顔の2倍はあるであろう特大のお皿を当然のごとく用意するいつ子さん。この豪華なお皿に負けないほど大きな「デラックス玉大」と「肉肉肉大大大」がドカンとのるのだ。このサイズを1人でたいらげる人もいるそう。果たしてライター天野の胃袋の運命やいかに・・・
「デラックス玉大」の生地。コーンやイカが追加されてはいるものの、ベースは粉とキャベツと肉のみで材料はいたってシンプル
「お母さんの生地、かなり水っぽくないですか?粉もすっごくサラサラだし」
「うちのお好み焼きはかなりやわいんよ。一時期はお客さんに鉄板付きのテーブルで焼いてもらおうかとしたんやけど、やわすぎて誰も焼けんやったとよ」
「福岡のうどんは”やわ”ですけど、お好み焼きの”やわ”って何風になるんですかね?お母さんのお好み焼きって何風?」
「うちのは仔馬風たい」
「し、しびれる〜!!」
サラサラの生地は泡立て器でシャカシャカと混ぜられる。粉はすべてふるいにかけられておりサラサラ、”仔馬風”に調合されている
そうこうしているうちにも鉄板の上ではテキパキとお好み焼きが焼かれていく。さすがは食べ盛りの中高生が足繁く通う店。お腹をすかせたお客さんを待たせるわけにはいかないという信念を感じるぞ。
もたもたしていてはシャッターチャンスさえ逃してしまう!とその時
\ジャッ/
にこっ
四刀流焼き返し 炸裂!!!
「ちょっとお母さん!?今一瞬、千と千尋のかまじいかと思いましたよ・・・」
「うふふ。上手かろ」
「びっくりです! こんなに大きいとヘラ2つじゃ返せないですよねえ。あっ、ひっくり返したあとは生地を抑えるんですね」
「そうそう。こうやって抑えて生地が広がると、火が早く通るやろ。お客さんを待たせるわけにはいかんたい。ほら、もうできあがるとよ」
いつ子さんの手から勢い良く放たれるマヨ!!
またも炸裂する四刀流!!!
でかすぎる「デラックス玉大」を前に、もう食べる前から嬉しくて笑いが止まらない!
では早速、いただきまーす!!!
パクッ
んんん〜〜!!!
「美味しい!!!!やわらかくて、すっごくふかふか! 一番シンプルなメニューで、具は粉とキャベツと肉しか入ってないですよね? それなのにこんなに美味しいって、何なんですか?幸せ!」
「ありがとう(ニコニコ)」
「厚みがないから一口が重くないです。マヨネーズにも何か秘密がありますか?」
「マヨネーズはお好み焼き用のを使いよるとよ。材料は全部、昔から同じやつたい」
「へえー!だからちょっとさっぱり感もあるのかな。やばいこれ1枚全部いけるかも」
「そうそう。見た目はでかいけど、意外と食べれるやろ。なんか思い出して食べたくなるっちゆうて、2、3日おきに食べんきなはる人もおると。”変な薬の入っとうやなかね”って言われるたい」
「いやわかります!近くにあったらめちゃめちゃ通いそうです。全メニュー制覇してみたいし」
「そうね? ほんなら、ちくわと手羽先も食べんね?」
「いいんですか!?いただきます!」
お好み焼きのほかにこちらの揚げメニューも。こりゃ中高生の買い食いにも大人のおつまみにも最高だ!
ちくわは少しピリ辛の衣が美味しい。こりゃあビールがないとやってられんばい!
揚げ物メニューに使われる独特の味付き衣は、「作り方を教えてほしい」と福岡からいらっしゃる方もいるそうだが、門外不出のレシピらしい。味がかなり濃いめなところは、育ち盛り、部活帰りの学生や仕事終わりにビールを欲するサラリーマンにもぴったりである。
このあと、ライター天野はなんと『デラックス玉大』とちくわ、手羽先を1本ずつ完食。
お皿のでかさを前に硬直し、「うわあ、食べきれるかなあ」などと弱々しく漏らしていた姿が嘘のようだ!
仔馬、バンザイ!!!!
この日もお店には、元三橋中生たちが何人も訪れていた。「いそがしかね?」「体調はどげかね?」と、久しぶりに会う家族のようなやりとりが交わされる
それにしても、これほどボリュームのある『デラックス玉大』でさえ600円、『肉玉』にいたっては400円という採算度外視っぷりである。
いつ子さん、こんなに安くて、お店は維持していけるの?
「値段はね、消費税が上がったときに1回だけ上げたんよ。今度また消費税が上がるやろ?そんときはもう上げんね、メニュー書き換えるのが面倒やん」
「でも、もうちょっと上げてもいいんじゃないですか?」
「お返したい。中学生の時来よった子も、いま孫連れてきなはるよ。お店が続いとうのも2、30年来てくれる人のおかげ」
「ああ、いい話です」
一度故郷を離れたことがある人なら、久しぶりに地元に帰ってきた時、「学生の頃通ったお店がまだそこにある」光景に、ほっとした経験があるのではないだろうか。まちの建物や人の生活スタイルも変わっていく中で、1つのお店がずっとそこにあるということは、何気ないけれど結構すごいことなのだ。
額縁に入れられた『仔馬』は、三橋中生が書道の時間に書いたものを持ってきてくれたのだとか
「ところでお母さん、後継者はいらっしゃるんですか?」
「継ぎたいって言ってくれる人は、他人なら何人もおるとよ。でも、朝ん4時からキャベツ切ったりできるね?お客さんとしゃべりながら焼きよるのを見ると楽しそうやけど、そういうこともせんといかん」
「お店を切り盛りするって、そういうことですもんね。お母さんにもずっと続けてほしいなって思うけど・・・」
「みんながそういってくれるけんありがたいねえ。はじめは商売なんかしきらんなち思いよったけど、この仕事は、いろんな人と話せて、楽しかよ。あんたみたいに、取材したいっち来てくれる人もおるしね。夢見させてくれてありがとう。まだ仔馬はやめられんたい!」
「お母さんありがとう!!絶対また来ます!!」
その佇まいとメニューのインパクトに惹かれて来店した仔馬だったが、店を出る頃には調査隊も全員、おちゃめないつ子さんのファンになってしまった。そしてなにより、ここには仔馬にしかない味がある。ふと思い出すと無性に食べたくなるあのお好み焼きといつ子さんとのおしゃべりをお目当てに、ちょっぴり柳川へ足を運ぶのも、懐かしい学生の頃を思い出すようでまた楽し。
卒業後も通う三橋中生・山門高校生たちも、きっと同じ気持ちに違いない。
絶メシ店によっては、日によって営業時間が前後したり、定休日以外もお休みしたりすることもございます。
そんな時でも温かく見守っていただき、また別の機会に足をお運びいただけますと幸いです。